みなさんこんにちは、
川越市六軒町にある就労継続支援B型事業所あしたのタネ川越六軒町のmです。
皆さんは白い巨塔という小説およびその派生作品を読んだり見たりしたでしょうか。
天才作家山崎豊子先生の作品の中でおそらく最も有名な作品です。
*
世代の関係上昭和の田宮二郎さん主演のバージョンは見ることができませんでしたが、
2003年の平成版、唐沢寿明さん主演の白い巨塔は子供ながらに見ました。
当時は医師という職業に憧れており、知識がないなりに画面に張り付いて見ていたと記憶しています。
余談ですが、元メジャーリーガーのイチローさんは本作にハマり、
DVDを買って何度も見ていたそうです。
視聴率も上々で、特に関西地区を中心に大ブームになりました。
*
今回語りたいのはこの通称唐沢版です。
本当はもう一つ令和に入ってから放送された岡田准一さん主演の令和版もあるのですが、
うっかり見逃してしまいました。
見ていた母曰く、案外悪くなかったそうです。
それにしても元号が変わるたびに新しく作られるのはすごいことだと思います。
*
概要
医療ドラマというとドクターXやドクターコトー診療所などヒット作はたくさんあるのですが、
やはり白い巨塔が1番面白かったですね。
腕は抜群で相応にプライドが高く、偉くなりたい主人公、
財前五郎と同期の里見助教授、
退官を控えるも財前を良く思わず後任教授にしたくない東教授をメインにした上で、
悩み多き若手の医師柳原や財前の取り巻きの医師佃たち、
保身のために策謀をめぐらせる鵜飼医学部長と言った、
様々な立場にいる人物が織りなすストーリーは魅力的と言わずしてなんというのでしょう。
人気が加熱して本編の放送終了後柳原医師を主人公にした単発作品が放送されました。
*
物語の舞台は浪速大学医学部(モデルは大阪大学医学部)における医師の働きと、
教授選の落とし合いなどの学内の政治ドラマ、
そして教授の座を手に入れワルシャワで最高の栄誉を得た財前の致命的な見落としで、
患者佐々木庸平が死亡(ここまで第一部)結果医療裁判が起き、財前は控訴審で敗訴。
そして播種になった財前の死までが描かれます。
*
見どころ
見どころはたくさんあるのですが、
財前がポーランドのアウシュビッツ収容所でナチスドイツによる、
ホロコーストの生き残りの人と話すシーンは子供心に強い印象を与えました。
トロッコで運ばれてきた人たちはガス室に送られて殺害されたり、
財前のような医師により人体実験が行われたりした。
おそらくこの辺はノンフィクションでしょうから、複雑な気分でしたが、
史実とフィクションの融合が見事だと思いました。
*
あとは、やはり第二部ラストの財前の死でしょうか、
見ていて何とも言えない気分になりましたね。
東教授へのつまらない嫌がらせのために佐々木氏を死亡させてしまった。
しかし一方で財前は労苦を惜しまず、自分の体がおかしいと思いつつも大量の患者を助けてきた、
そんなに自分がしたことは間違っていたのか?と問いかけるシーン、
この辺は難しい問題で、私には答えがなかなか出せませんでしたが、
人間は悪いこともしてしまうものとして生きていくしかないのかな?そう思いました。
後は財前が最期、対立していたとはいえ結局は互いを認め合っていた立場にいた、
唯一の人物である里見医師(第二部で鵜飼に逆らって左遷)が財前を看取るシーンは印象的でしたね。
*
登場人物論
はっきり言って、浪速大学第一外科は大河内教授以外の医師は、
大体何かしらの欠点を持っていると言っていい。
財前は東教授に嫌がらせを確かにしたが、そもそも東教授も財前を良く思っていなかった。
このように本作では全編を通じて主要登場人物の大半がどこかで摩擦を起こし、ミスを起こしていた。
東教授は東都大学(モデルは東大)の出身で間違いなくエリートではあるのだが、
押しが弱く学者気質なので後輩の船尾教授に舐められるに至り、
医学部の政争に向く人物ではなかった。
*
船尾教授にいろいろ言われた後、突如感情的になり、
家の盆栽や鉢植えを過呼吸になりながら破壊するシーンは、
一度見たら忘れられないのではないだろうか。
トップの鵜飼医学部長はわかりやすく財前の医療ミスの隠蔽を命令したが、
これは浪速大学の名声を保つことと医学部の混乱を防ぐためでもあったように見える。
何かと悪どい行動が目立ち、浪速大学の隠蔽体制と腐敗の元凶に見える鵜飼だが、
上に立つものは憎まれ役になると自認しているようにも見える、
特に第二部の最終回、がんセンターは国の一大事業だ!と熱弁して、
センター長の財前ががんであると評判が落ちると言い、
その後釜をすぐに探そうとし、東医師(町医者に転職)の怒りを買っている。
しかし、あれほど図々しくなければやっていけないものもあるのだろうと思う。
*
今現実では日本大学がスキャンダルで荒れているが、
なかなか収束しないところを見ると、悪名を被ってでも剛腕を振るうような、
ある意味でのカリスマ権力者がいないことに問題があるのだろう。
第一部で財前五郎を教授にするために、
カネを湯水のようにばら撒いた義父の財前又一は贈賄という悪事はしたが、
第二部で末期の癌に侵された彼をその最期まで見捨てなかった。
人間は悪いことをしてしまうかもしれないが、
だからといってそういった人がみな悪人かと言われると疑問が残ることを示しているともとれる。
柳原医師は財前の見落としについて早くから気づき、
財前の命令はおかしいと確信しながらも財前の命令だからと、
暗示のように唱えるばかりで悩みながらも責任から逃げていた。
しかし財前が控訴審で次第に不利になり、
ついには柳原へのあんまりな責任転嫁をされると怒りが限界に達し、
法廷で反乱を起こした。これが財前敗訴の一因となった。
*
財前は岡山にいる母への愛はあるとはいえ、基本的には名誉欲の塊のような人物なので、
自分の名声につながる選択を好んで選んだ。
そのため町の弁当屋の佐々木は財前に自分の治療よりも、
ポーランド、ワルシャワ出張を優先され、結果的に死亡してしまう。
不世出の外科の腕を持ち、佃や安西などの部下がついてくるカリスマ性もあったが、
命に優先順位をつけたのが財前のマイナス面であった。
里見助教授も普段は患者に寄り添う医師で、優秀な研究者でもある。
しかし彼は医療裁判に出廷したことで、一見道徳的に正しいことをしたように見えるが、
家庭を顧みないところがあり一時期一家離散の危機を招いた。
また、出廷したことで財前でなければ救えなかった命を、
摘み取ろうとしたということも事実、と言った具合に、
登場人物という歯車が少しずつずれを生み出している。
*
総評として、鑑賞する側から見れば大変面白い作品に仕上がっているため、
いまだにその価値を失っていない、昭和版からの名リメイクと言える。
医療技術も2003年の水準のものをしっかり使っているように見える。
ただ、強いて言えば、財前たちが佐々木氏のカルテを改竄する時、
修正液で塗りつぶすだけというのはどうなのか、とここだけは杜撰ではないかと思った。
話の都合で財前を勝たせてはまずいからなのだろうか?
*
その他雑記
このドラマは出演者もおそらく2003年時点で最高の名優ばかりで、
すごいとしか言いようがありません。
そもそも原作が古いとはいえ、
その原作が山崎豊子先生の膨大な取材のもとで成り立っているので、
土台がしっかりしているのは当たり前ではあります。
山崎先生はこのフルリメイクに「平成という時代にふさわしい作品」と大層満足したようで、
のちに山崎作品の「不毛地帯」がドラマ化された時、
キャストに唐沢さんを指名したそうです。
これを書いていて、図らずもヘイリーさんの
アメイジング・グレイスを聴きたくなりました。
完